【2024年4月号】絵本づくりの仕事場より/杉田 豊
2024.03.05
仕事場
いつも、なにも気づかずに通り過ぎていた道端の草むらにふと目をとめると、小さな白い花がかすかにふるえていました。目線を移すと、あざみの赤紫色が緑のなかでさえています。ちょっとした驚きで、素直に美しいと感じました。しばらく見つめていると、歌が聞こえてきます。『わたしたちみんな、元気で生きていてうれしいんだ』と、言っているようでした。わたしは心と時間の余裕のない日々で、大切なものを忘れていました。それは歌が自然に歌えることです。歌を忘れたカナリアのように絵が素直に描けず、あたらしい絵本の姿があらわれてきません。小さな白い花が教えてくれました。『自分の歌をせいいっぱい歌えばいいんだよ』と。
20数年前、最初の絵本はいつのまにかできてしまったという感じでしたが、2冊目からは意識が絶えず大きくのしかかることが続いています。リズムやメロディがなかなか生まれてきません。でも、時間をかけて少しずつ歌いだしてみました。だんだんうれしくなってきそうです。わたしもみんなといっしょに、生きている喜びを確認したいのです。
1990年 にじのひろば『絵本づくりの仕事場より』の文章から
▼ 杉田 豊(1930-2017)
埼玉県生まれ。絵本作家、グラフィックデザイナー、筑波大学名誉教授。
1979年ボローニャ国際児童年記念ポスターコンクール最優秀賞、『ねずみのごちそう』(講談社)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞と産経児童出版文化賞美術賞を受賞。1980年『うれしいひ』講談社出版文化賞絵本賞受賞、1990年『みんな うたってる』で産経児童出版文化賞など受賞多数。
鮮やかなインクと美しい配色で描かれた絵本は国内のみならず世界各国で発行されています。
▼こどものせかい2024年4月号
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片柳弘史神父とよむ こどものせかい
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