【2023年5月号】絵本づくりの仕事場より/佐久間 彪・矢野滋子
小さいころ、庭に咲いている花が好きでした。どこの家の庭にも咲いていた、ある意味では平凡な、でも、ひとつ、ひとつは個性あふれた、あの花ばな。ポンポンダリア、グラジオラス、百日草、葉げいとう(これは花ではなかったかな)、ほうせんか、おしろいばな、松葉ぼたん、そして、ひまわり。考えてみたら今、わたしの好きなのも、この同じ花たちです。そこで、考えました。
イエスさまも、幼いころ心に焼きついたさまざまの思いを、きっといつも持ちつづけられたのではないか、と。マリアさまといっしょに過ごされたイエスさまの幼年時代。それが、あのイエスさまのすばらしいお話のもとになっていたのではないか、と。
で、この絵本ができたというわけです。
佐久間 彪
病気の人が、元気な顔を見せてくれたとき、うれしい。外国に住んでいる親友から、手紙が届いたとき、うれしい。シメキリ日に、絵が間に合ったとき、うれしい。枯れたと思っていた枝から、新芽が出たとき、うれしい。小鳥が餌かごに入れたリンゴの皮を食べにくるのが、うれしい。小さい花を見つけたり、飾ったりするのが、うれしい。コンクリートの割れ目に、花が咲くのを見るとき、うれしい。などなど……。
感じる生活をちょっとふり返ってみると、「うれしいとき」って、案外たくさんあるのに気がつきます。いろいろ感じるなかで、小さいことですぐうれしくなる心があれば、明るい光がさし込む場が広がっていくような気がするのです。
矢野滋子
1992年『絵本づくりの仕事場より』の文章から
▼ 佐久間 彪 (1928-2014)
東京に生まれる。上智大学大学院哲学研究科、フランクフルト・ザンクト・ゲオルゲン大学神学部、アーヘン教区立神学院卒業。1956年カトリック司祭に叙階。1998年白百合女子大学名誉教授。カリール・ジブラン著 『預言者』の翻訳、宗教関係の著作・訳書のほか、『マリアさまのこころ』などの聖歌やこどもの歌の作詩・作曲、さらに絵本の詩や文も数多く手がける。
文を手がけた絵本には『ちいさな もみのき』『おはなししよう 神さまと― わたしの詩編』『絵でみる こどもとおとなの はじめての聖書-新約編・旧約編-』(至光社刊)などがあります。
▼ 矢野滋子(1933-2018)
長崎に生まれる。1954年聖パウロ女子修道会(東京)に入会。月刊誌『あけぼの』(女子パウロ会発行)の表紙を45年間描いたほか、数々の書籍の表紙や挿絵を担当。
月刊絵本『こどものせかい』では『みえないけど みえるの』(武市八十雄・文)、『おくれてついた ひつじかい』『こどものすきな イエスさま』などの絵本も多数残されました。
▼こどものせかい2023年5月号
『マリアさまの うれしいとき』をみる
◇この絵本をもっとあじわう
片柳弘史神父とよむ こどものせかい
◇編集者による制作エピソードなど
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