【2023年11月号】片柳弘史神父とよむ こどものせかい
2023.10.05
エッセイ
できないものはできない
鳥や虫の鳴き声や、風の音さえ真似できるのに、猫らしく「にゃーん」と鳴くことができない、ちょっと変わった猫のとらきち。できて当然と思われていることができないとらきちの悲しみが、わたしはなんだかよくわかる気がします。なぜなら、わたしも子どものころ、他の子たちが当たり前のようにしていることができなかったからです。
わたしが何よりできなかったのは、勉強することでした。他の子たちは黙って先生の話を聞き、言われた通り問題を解いたりすることができるのに、わたしにはそれができませんでした。先生の話はうわの空で、隣の席の子どもにちょっかいをだしたり、おしゃべりが止まらなかったり。そんな風なので、テストもまったくできませんでした。「なんでお前は他の子のようにできないんだ」と何度いわれたかわかりません。しかし、できないものはできなかったのです。
そんなわたしが変わったのは、小学校の6年生くらいのことでした。歴史の授業に興味をもって聞き始めたら、歴史のテストができるようになり、歴史のテストができるようになったら、自信がついたのか、他の科目でも点数がとれるようになったのです。なぜそれまで、みんなが普通にやっていることができなかったのか、それはいまでもわかりません。わたしたちは意外と、自分の心の中に起こっていることでさえわからないことが多いのです。
とらきちも、きっとそんなことなのでしょう。寝言では「にゃーん」といえるのですから、いつかきっと、自分にも猫の言葉が話せることに気づくはずです。そのときがくるまで、とらきちをあたたかく見守ってあげましょう。
◇2023年11月号「とらきち」 かみちとせ・絵と文◇
▼ 片柳弘史 プロフィール
カトリック宇部教会主任司祭。1971年埼玉県生まれ。1994年慶応大学法学部法律学科卒業。1994〜95年インド・コルカタにてボランティア活動。マザー・テレサから神父への道を勧められる。1998年イエズス会入会。2008年上智大学大学院神学研究科修了。同年、司祭叙階。現在は山口県宇部市で3つの教会の主任司祭、3つの幼稚園の講師、刑務所の教誨師。
◆著作に『みんなのやさしいおかあさん マザー・テレサ』(絵・つるみゆき/文・片柳弘史、至光社)『こころの深呼吸〜気づきと癒しの言葉366』『やさしさの贈り物〜日々に寄り添う言葉366』(教文館)、『世界で一番たいせつなあなたへ〜マザー・テレサからの贈り物』『何を信じて生きるのか』(PHP研究所)『ひめくりすずめとなかまたち』(キリスト新聞社)など。
◆Eテレ『グレーテルのかまど〜マザー・テレサのチョコレート』、テレビ朝日『ぶっちゃけ寺〜キリスト教特集』などに出演。ブログ、X(旧Twitter)、facebookを通しても情報発信している。
▼こどものせかい2023年11月号
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