【2024年1月号】Editor's Room
宇治勲さんの絵本「ガタタン ゴトトン メトロさん」の原画を初めて拝見した時、不思議な感動を覚えました。共感めいた気持ちがもやもやと心に湧き上がる感じ。何でしょう?それは…
細部が丹念に緻密に描き込まれた主人公のメトロさんや乗客たち、混みあった車内の様子、乗客ひとりひとりの表情や衣装。随所に織り込まれたユーモラスな動物たちなどなど…。主人公とそれを取り巻く世界が愛情いっぱいに表現されています。
この絵本の主人公、メトロさんは、来る日も来る日も地下に敷かれた線路の上をひたすらにガタタンゴトトン、ガタタンゴトトンと、自らの天職を全う(まっとう)します。明るい場所を走るのは、トンネルの切れ目のほんの一瞬。
僕と宇治さんは同年齢。長く勤め、同時期に子育てをし、人生の節目を迎えました。絵本作りの現場でも、折に触れ仕事、家庭、そして僕らを取り巻く社会について、同世代としていろいろな話をしました。
冒頭に述べた不思議な親近感。それはご本人の社会に対する視線の変遷、誤解を恐れず述べれば“時を経て熟成された愛情”が、作中色濃く表出していることによるのだと思います。
画面に登場する市井の小さく地味で目立たない者達が、日常の一見単調な営みの中で発する多様な輝きを、宇治さんは決して見過ごさず、長年磨き上げた絵と言葉の力をもって愛情豊かな絵本を編み出しました。緩やかに曲がりくねる線路の軌跡に、宇治さんの歩んだこれまでを漠然と想います。(H.T)
▼こどものせかい2024年1月号
『ガタタン ゴトトン メトロさん』をみる
▼ 作者のことば・プロフィール
絵本づくりの仕事場より
▼ この絵本をもっとあじわう
片柳弘史神父とよむ こどものせかい
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