【2024年5月号】片柳弘史神父とよむ こどものせかい

2024.04.05   エッセイ

 

 


もうじっとしていられない

 

 あまりに美しいもの、荘厳なものなどと出会って心を動かされることを感動といいますが、心が動かされるとき、体も一緒に動き出してしまうことがあります。たとえば、散歩の途中で、土手を覆い尽くすようにして咲いた菜の花の黄色に包まれたとき、わたしはもうじっとしていられなくなります。走り出したくなるような、あるいはスキップしたくなるような、大きな声で叫びたくなるような、そんな気持ちになるのです。そんなとき、わたしは、周りに人がいないかちょっと確かめてから、「うわぁー」と喜びの叫びをあげ、そのまま走り出します。もう、じっとしていられなくなるのです。

 踊りだしたくなる人の気持ちも分かります。心を深く動かされ、もうじっとしていられない。そんなとき、踊れる人は踊り出すのでしょう。子どもたちがいつも踊っているように見えるのは、子どもたちがいつも世界に感動しているから。自分の気持ちに正直だからなのでしょう。逆に、大人になると踊らなくなるのは、感動する心を失ってしまうから。周りの人の目を気にして、自分に正直に行動できなくなるからなのかもしれません。

 この絵本に登場するぬいぐるみの熊は、そんな大人の気持ちを表しているようにも思えます。「どうしておどっちゃうのかしら」と子どもたちを見て不思議そうにしている熊ですが、あまりにもうれしそうな子どもたちの姿に引き込まれて、自分も踊り始めます。子どもの気持ちを取り戻したといってもいいかもしれません。日々の暮らしに慣れること、周りの人の目を気にすることも必要だけれど、ときには子どもの気持ちにもどり、生きることを全身で楽しんでみませんか。この絵本は、わたしたちにそう呼びかけているような気がします。
 
 
 
 
 
 


 

◇2024年5月号「おどっちゃう」 山﨑 優子・絵と文◇

 

 

 

▼ 片柳弘史 プロフィール

カトリック宇部教会主任司祭。1971年埼玉県生まれ。1994年慶応大学法学部法律学科卒業。1994〜95年インド・コルカタにてボランティア活動。マザー・テレサから神父への道を勧められる。1998年イエズス会入会。2008年上智大学大学院神学研究科修了。同年、司祭叙階。現在は山口県宇部市で3つの教会の主任司祭、3つの幼稚園の講師、刑務所の教誨師。

◆著作に『みんなのやさしいおかあさん マザー・テレサ』(絵・つるみゆき/文・片柳弘史、至光社)『こころの深呼吸〜気づきと癒しの言葉366』『やさしさの贈り物〜日々に寄り添う言葉366』(教文館)、『世界で一番たいせつなあなたへ〜マザー・テレサからの贈り物』『何を信じて生きるのか』(PHP研究所)『ひめくりすずめとなかまたち』(キリスト新聞社)など。

◆Eテレ『グレーテルのかまど〜マザー・テレサのチョコレート』、テレビ朝日『ぶっちゃけ寺〜キリスト教特集』などに出演。ブログX(旧Twitter)facebookを通しても情報発信している。

 

 


 

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