【2024年8月号】絵本づくりの仕事場より／柿本幸造・蔵冨千鶴子
2024.07.05
仕事場
わが泉も涸れ果てたかと、終日を画架に背を向け、ションボリしていたり。
今日は、まことに、まことに充実した1日であった、これは好調なのであると、うぬぼれてみたり。
いくらもがいてみても、できないときはしかたがないじゃないか、鈍いのは生まれつきと、ふてくされてみたり。
それでも、たまには冴えて、ためらいなく絵筆が動いてくれると、すっかりうれしくなったり。
このようにして、『どんくまさんの こもりうた』の原画はできました。
どんくまさんのシリーズも、この『こもりうた』で10冊目の絵本になります。
今日は、まことに、まことに充実した1日であった、これは好調なのであると、うぬぼれてみたり。
いくらもがいてみても、できないときはしかたがないじゃないか、鈍いのは生まれつきと、ふてくされてみたり。
それでも、たまには冴えて、ためらいなく絵筆が動いてくれると、すっかりうれしくなったり。
このようにして、『どんくまさんの こもりうた』の原画はできました。
どんくまさんのシリーズも、この『こもりうた』で10冊目の絵本になります。
柿本幸造
1976年『どんくまさんの こもりうた』
上製本あとがきより
▼『こどものせかい』初版発行時に掲載された『絵本づくりの仕事場より』柿本幸造さんの貴重な手書き原稿です
どんくまさんが今回出会ったのは、手強い相手でした。小さなうさぎの坊やに、大きなどんくまさんはキリキリ舞いさせられます。迷子を届けないでいっしょにいたため、その両親を悲しませ、世間を大騒ぎさせた、といえば誘拐と思われてもしかたない大失敗といえます。
間違いのはじまりは、どんくまさんが疑うことを知らなかったこと。うさぎの坊やのいったひとこと「お父さんがいない、お母さんがいない」を真に受けて、家のないみなしごだと思い込み、その場から責任を感じて、坊やを慰め、喜ばせようと一生懸命世話をします。ひとりぼっちでいても、いつも誰かと友だちになりたい、誰かの役に立ちたいと願っているこころが、じかに伝わったのでしょう、うさぎの坊やは安心して、家も両親もひととき忘れてしまいました。
さて、おなかをすかせた坊やのために、早朝にんじんを探して町へ行ったどんくまさんは、迷い子を探すうさぎたちに似顔絵を見せられ、質問されますが、頭のなかはにんじんでいっぱい、坊やに思い当たりませんでした。どんくまさんの融通のきかないところです。
けれど、いったん間違いに気づいたときのどんくまさんの行動は見事です。自分が責められるかもしれないという心配は後にして、すぐに坊やを安全に家に連れもどすことを果たしました。最後で、町のうさぎたちの憤りを一瞬のうちに溶かしてしまったのは、うさぎの坊やですが、彼にはどんくまさんの誠意や苦労が、ちゃんと通じていたのでした。
間違いのはじまりは、どんくまさんが疑うことを知らなかったこと。うさぎの坊やのいったひとこと「お父さんがいない、お母さんがいない」を真に受けて、家のないみなしごだと思い込み、その場から責任を感じて、坊やを慰め、喜ばせようと一生懸命世話をします。ひとりぼっちでいても、いつも誰かと友だちになりたい、誰かの役に立ちたいと願っているこころが、じかに伝わったのでしょう、うさぎの坊やは安心して、家も両親もひととき忘れてしまいました。
さて、おなかをすかせた坊やのために、早朝にんじんを探して町へ行ったどんくまさんは、迷い子を探すうさぎたちに似顔絵を見せられ、質問されますが、頭のなかはにんじんでいっぱい、坊やに思い当たりませんでした。どんくまさんの融通のきかないところです。
けれど、いったん間違いに気づいたときのどんくまさんの行動は見事です。自分が責められるかもしれないという心配は後にして、すぐに坊やを安全に家に連れもどすことを果たしました。最後で、町のうさぎたちの憤りを一瞬のうちに溶かしてしまったのは、うさぎの坊やですが、彼にはどんくまさんの誠意や苦労が、ちゃんと通じていたのでした。
蔵冨千鶴子
1990年『この絵本をめくりながら』より
▼ 柿本幸造（1915-1998）
広島県生まれ。上京後は鎌倉に居を構える。手がけていた広告の仕事が編集者の目に留まり、1954年から絵本の仕事に携わる。優しくあたたかな画風で知られる。
1967年 『どんくまさん』を発表。 「どんくまさんシリーズ」は26冊を数え、 イギリス・アメリカなど海外でも発行されている。そのほかの作品に『どうぞのいす』 『もりのおくのちいさなひ』（以上、ひさかたチャイルド）、『しゅっぱつしんこう！』（小峰書店）などがある。1959年第8回小学館絵画賞、1964年第18回毎日出版文化賞、1980年フィンランド児童文学協会から翻訳児童図書優秀賞受賞。
▼ 蔵冨千鶴子（1939-2018）
東京都生まれ。子ども時代を山口県の海辺の町で過ごす。1965年より至光社編集部にて月刊保育絵本『こどものせかい』の編集制作と絵本創作に携わる。「どんくまさんシリーズ」26冊のほか、『のらいぬ』（谷内こうた・絵）、『ゆうやけいろの くま』（つるみゆき・絵）、『ちいさい イエスの おたんじょうび』（矢野滋子・絵／サンパウロ刊）などの絵本作品がある。
▼ どんくまさんシリーズ＜特設ページ＞
展覧会情報
特別展
ひだまりの絵本画家
柿本幸造展
2024年7月20日(土)〜9月23日(日)
黒姫童話館 童話の森ギャラリー
〒389-1303 長野県上水内郡信濃町野尻3807-30
開館時間：午前9時 〜 午後5時（最終入館時間 午後4時30分）
◎入館料・休館日等、詳しくは黒姫童話館のホームページをご覧ください https://douwakan.com
▼こどものせかい2024年8月号
『どんくまさんの こもりうた』をみる
▼ この絵本をもっとあじわう
片柳弘史神父とよむ こどものせかい
▼ 編集者による制作エピソードなど
Editor's Room
▼ 【園向け】
保育に役立つ絵本ガイドとダウンロードコンテンツはこちら
▼ WEBふろく「ちいさなひろば」へのアクセスはLINEがおすすめです。
特典として壁紙もプレゼント中！ぜひご登録ください。
