【2024年8月号】片柳弘史神父とよむ こどものせかい

2024.07.05   エッセイ

 

 


愛のある失敗

 

 心のやさしいどんくまさんが、山の中で泣いている子うさぎを見つけ、やさしく世話してあげるお話です。どんくまさんのお陰で子うさぎは無事お父さん、お母さんのもとに帰れたのですが、ちょっと失敗がありました。町で行方不明の子うさぎを探しているうさぎたちに出会ったのに、それが自分のところにいる子うさぎだと気づかなかったのです。きっと、「お腹を空かせて待っている子うさぎに、早く食べ物を届けなければ」ということで頭がいっぱいだったのでしょう。

 子うさぎと遊んでいるうちに、自分の失敗に気づいたどんくまさん。大慌てで子うさぎを町に届けます。町のうさぎたちは最初、どんくまさんの失敗を責めますが、子うさぎがどんくまさんをすっかり気にいっていること。どんくまさんが、子うさぎにとてもよくしてくれたらしいことを知ると、もう何もいえなくなってしまいました。どんくまさんが、悪い気持ちでしたのではないこと、裏も表もなく、本当にやさしいくまだということがよくわかったのです。

 インドで貧しい人たちのために生涯を捧げたマザー・テレサが、「愛のない成功よりも、愛のある失敗の方がましです」とよくいっていました。自分のことしか考えないくまだったら、「こんな迷子の世話なんかしている暇はない」と思って、子うさぎを放っておいたことでしょう。でも、どんくまさんはその逆でした。子うさぎを放っておけないと思い、子うさぎを自分なりに精いっぱい世話するなかで、結果として失敗をしてしまったのです。このような失敗こそ「愛のある失敗」だといってよいでしょう。そのような失敗は、「愛のない成功」よりはるかに豊かな実りをもたらします。子うさぎは、夜の山で聞いたどんくまさんのこもりうたを一生忘れなかっただろうし、ときには山に行ってどんくまさんとたのしい時間を過ごしたことでしょう。たとえ失敗したとしても、愛することを選ぶ。そんなやさしい気持ちの大切さを、どんくまさんに教えてもらった気がします。
 
 
 
 


 

◇2024年8月号「どんくまさんの こもりうた」 柿本幸造・絵 蔵冨千鶴子・文◇

 

 

 

 

 

 

▼ 片柳弘史 プロフィール

カトリック宇部教会主任司祭。1971年埼玉県生まれ。1994年慶応大学法学部法律学科卒業。1994〜95年インド・コルカタにてボランティア活動。マザー・テレサから神父への道を勧められる。1998年イエズス会入会。2008年上智大学大学院神学研究科修了。同年、司祭叙階。現在は山口県宇部市で3つの教会の主任司祭、3つの幼稚園の講師、刑務所の教誨師。

◆著作に『みんなのやさしいおかあさん マザー・テレサ』(絵・つるみゆき/文・片柳弘史、至光社)『こころの深呼吸〜気づきと癒しの言葉366』『やさしさの贈り物〜日々に寄り添う言葉366』(教文館)、『世界で一番たいせつなあなたへ〜マザー・テレサからの贈り物』『何を信じて生きるのか』(PHP研究所)『ひめくりすずめとなかまたち』(キリスト新聞社)など。

◆Eテレ『グレーテルのかまど〜マザー・テレサのチョコレート』、テレビ朝日『ぶっちゃけ寺〜キリスト教特集』などに出演。ブログX(旧Twitter)facebookを通しても情報発信している。

 

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