【2024年11月号】絵本づくりの仕事場より/井口文秀・佐久間彪

2024.10.07   仕事場

 

 この絵本を描きながら思ったことは、すさんだ現代社会に、この牧夫のように愛の心に目ざめることができるものでしょうか、ということ。
 でも、もしかしたら私たちの曇った心の奥の奥に埋もれていて、なかなか見えないものなのでは、ということでした。
 
 都会にいては子羊をみる機会がありません。昨年、他の取材で福島市郊外に行ったとき、その土地に住まわれている若い奥さまのご案内で緬羊の牧場に行きました。そのとき4、5月頃に生まれてくる子羊がとてもかわいいということを聞かされていました。
 今年の4月、この「ぼくうれしかった」の原案をいただきましたので、とりあえず福島のあぶくま牧場にかけつけました。生まれて2週間ほどの愛らしい子羊が5匹もいたので、私の胸は高鳴りました。
 しかし見知らぬ私の訪問で子羊たちは恐怖と警戒で牧舎の奥へ奥へと移動し、物陰にかくれてしまいました。そのうち昨年の奥さまが顔をお出しになると、安心してそばへ寄って行くのです。私はハッとしました。そしてグリムの狼と7匹の子ヤギのお話を思い浮かべていたのでした。

井口文秀


 


 イエスさまのなさったお話のなかで、誰でも知っているのは、「迷える羊」のたとえではないでしょうか。
 「あなたがたはどう思うか。もし誰かが100匹の羊を飼っていて、その1匹が迷い出たとしたら、99匹を山に残して、迷ってしまった1匹を探しに行くのではなかろうか。そしてもし見つけたなら、迷わなかった99匹以上にこの1匹のことを喜ぶ。このように、小さい者たちのひとりが滅びることは、天の父の御心ではない」
 マタイ伝18章にあるこのお話ほど、神さまのやさしさを、はっきりさせるものはありません。その1匹とは、そう、だめな私たちのことなのです。

佐久間 彪


1985年『絵本づくりの仕事場より』の文章から

 

 

▼ 井口文秀(1909-1992)

富山県に生まれる。児童図書、教科書などに口絵、挿し絵を描いた後、創作絵本に傾倒し、自然と人間のかかわりについて追求。真善美への強い憧憬を抱き、ある時は白鳥をもとめてシベリア・ヤクーツクへ、ある時は遺跡に住む のら猫を探訪するためローマへ、またある時は、アフリカへと取材旅行をおこなう。第1回小学館児童文化賞、第24回サンケイ児童出版文化賞、第2回よみうり絵本にっぽん大賞などを受賞。絵本に「きんのまど」「べつれへむのうしごや」「ぼくうれしかった」(至光社刊)など。
あたたかさあふれるデッサンの確かな画風は海外でも定評があり、イギリス、ドイツ、フランスなどの国々で発行されてきました。

 

▼ 佐久間 彪 (1928-2014)

東京に生まれる。上智大学大学院哲学研究科、フランクフルト・ザンクト・ゲオルゲン大学神学部、アーヘン教区立神学院卒業。1956年カトリック司祭に叙階。1998年白百合女子大学名誉教授。カリール・ジブラン著 『預言者』の翻訳、宗教関係の著作・訳書のほか、『マリアさまのこころ』などの聖歌やこどもの歌の作詩・作曲、さらに絵本の詩や文も数多く手がける。
文を手がけた絵本には『ちいさな もみのき』『おはなししよう 神さまと― わたしの詩編』『絵でみる こどもとおとなの はじめての聖書新約編旧約編-』(至光社刊)などがあります。

 

 

 

 

 

▼こどものせかい2024年11月号
 『ぼく うれしかった』をみる

 

 

 

▼ この絵本をもっとあじわう
  片柳弘史神父とよむ こどものせかい


 

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